インプラント治療の長期安定性について考える③
5、「当診療所は、使用しているインプラントメーカーが世界シェアNO.1のインプラントシステムを採用しているので大丈夫です。」は、安心安全なのでしょうか?
非常に多い質問ですね。
インプラントメーカーは、各社様々な企業努力、リサーチなどを通してその時代、その時代において最適なインプラント体の形態や表面性状を日々モデファイを繰り返して商品開発をしております。
50年前のインプラントと全く同じということは無く、様々な工夫や発想により臨床的に安定した商品を我々歯科医療従事者に供給して下さっております。
しかしながら、現在日本国で販売されている国内外メーカーのインプラントシステムを比較するとその臨床成績に大きな差は無く、ブランド力の違い、開発力の違いがあったとしても臨床的な優位性が正直ありません。
もし、優位性があるとしたら各種インプラントシステムのユーザーの日本全国的な分布が重要となります。それは、人が生活を送る上である一定の場所で一生を遂げる可能性を考慮するとメンテナンスの問題が浮上します。メジャーなインプラントシステムの場合、そのユーザーが全国に満遍にいる場合は安心、疎らな場合は不安というネガティブな発想をさせてしまいます。
しかし、よく考えて下さい。
同じメーカーのユーザーだから全て臨床成績は同じでは無いのです。
インプラントを使用する条件や適応症、設計、治療方針は歯科医師により全く違い、同じメーカーのユーザーだから価値観、使用する際の条件は一律ではありません。
もっと言うのであれば、ブランドで選んでいるユーザー、先輩の先生に勧められたから使用しているユーザー、学会や飛び込みの営業マンに勧められて使用しているユーザー等、様々なユーザーがいるのにも関わらず、一律に世界シェアNO.1のメーカーのユーザーとなっているのは何が目的か理解が出来ない状態です。
少し話を変えます。
それでは、世界シェアNO.1のインプラントシステムを使用すれば全て治療は成功するのでしょうか?
骨と結合するという本来の目的は、どのメーカーのインプラントシステムでも正直可能なのです。
結局の所、使用するインプラントシステムの問題では無く、使用するユーザーの問題が大きな問題です。
インプラントシステム各社もヘビーユーザー(年間の埋入本数が多い先生)に対して講師として迎えて講習会を企画をしたり、「新たにインプラントシステムを導入して頂ければ、先生を講師として講習会を開かせて頂きます。」と勧誘されます。私もされました。
これは、企業努力でありますので否定はしませんが、問題は長期的な安定という結果を出せるユーザーかは問わないところに問題があると思います。
インプラント治療において成約率が高いとの臨床成績が高いのは別問題と考えた方が良いと思います。
それは、インプラントの成約本数では無く長期的に良好な症例が何症例存在しているのか?
医療なのですから、商業的な考えでは無く、個々の患者さんのお口の問題に対してインプラント埋入する場所を考える事も適材適所だけでは無く、長期的な安定を得られる治療計画の一要因としてのインプラントシステムであり、あたかもそのシステム使用することが全ての解決方法であるという考え方を患者さんへの説明となっているとすると危険ですね。
やはり、インプラントシステムの責任ではなく、担当医先生の責任なのです。
6、「歯科用インプラントは全世界で50年以上の実績に関する論文があるので安心して下さい!」は、大丈夫でしょうか?
この質問も多いですね。
この論文は某国が国家プロジェクトで予防に重点を置いた政策が実現できているお国の論文です。インプラントの予後に関する国家・大学病院レベルで管理されているので、成績は日本の一開業医が出せる成績ではありません。日本人(モンゴロイド)、アジア人の特徴であります、顎の骨が小さく骨の量が少ない民族では無い他国の論文を提示してインプラントの安全性を患者さんにお話をする先生が多いのには大変に驚きます。
私は、2022年3月21日現在で私が携わったインプラントは24年経過の症例が長期的な臨床成績です。それ以上もないですし、それ以下もありません。
ある患者さんにインプラント治療の後了承を得たのが歯科医師3年目でした。
未経験である事も含めて、何故?イオンプラント治療が必要なのか?を全て正直にお話をしました。経験値だけは、どうする事も出来ないのはどんな業界でも同じですよね?資料を集めてどれだけ安全策や治療計画の透明性などをしっかりとインフォームドコンセントを行う事でご了承頂きました。その一生を忘れません第1号の患者さんは、メンテナンスでお会いする度に感謝の念とインプラント治療の全てが始まった証であると認識できる瞬間です。本当に感謝です。人(誰か)の論文は、自分の論文ではありません。安心材料の一つにする事自体烏滸がましいと言えます。もし、それで思わぬ結果となった時どうするのでしょうか?
正直、素直、謙虚は何事にも勝る患者さんの安心に繋がると考えます。
しかし、それで患者さんにインプラント治療を受け入れて頂けなかった場合は、まだその領域に至っていないのだと思います。
JSOI日本口腔インプラント学会専門医
IPOI近未来オステオインプラント学会専門医、認定医
ICOI国際インプラント学会フェロー
日本顎咬合学会(咬み合わせ)本部理事・指導医、認定医、北海道支部支部長
北海道歯科医師会学術委員
北海道大学歯学院大学院生
科学的根拠と各種専門医ライセンスを取得し、維持している立場から治療計画を立案させて頂いております。
次回もインプラント治療の長期安定性について書かせて頂きます。